経営者の離婚問題
経営者の離婚問題
経営者の離婚問題の特徴
会社経営者の場合、所得が高額であることが少なくなく、保有する財産の種類も広範囲にわたりますから、慰謝料や財産分与が複雑化して紛争になりやすい傾向にあります。
また、会社と経営者、配偶者との関係が離婚にも影響するなど会社経営者特有の問題があります。
分与割合
夫婦が離婚する際、夫婦の一方の名義になっている財産でも、夫婦が協力して取得したといえる財産については、財産分与の請求が出来ます。財産分与の割合は、原則として2分の1です。
しかし、例外的に夫婦の一方の特別努力や能力によって高額の資産形成がなされた場合には、財産分与の割合は、財産形成に対する夫婦の寄与度を夫婦ごとに判断することになります。
会社経営者の場合、個人の経営手腕、経営能力が財産形成の大きな要因になっている場合があります。そのような場合、財産形成に対する寄与度は修正される必要があります。
松山地方裁判所西条支部判決昭和50年6月30日は、夫婦共同財産は、妻が内職から始まりプロパンガス販売業を続けて形成したものであり、夫は遊興にふけることが往々で資産構築には努力していないなどとして、妻に約7割の分与を認めました。
分与対象財産
① 会社名義の財産
会社財産と配偶者個人の財産は別であり、原則として配偶者が経営する会社の財産は財産分与の対象にはなりません。
しかし、例外的に、夫婦が共同して行っていた事業が法人化したような場合には、配偶者が経営する会社の財産も財産分与の対象になる場合があります。
広島高等裁判所岡山支部判決平成16年6月18日は、夫婦を中心とする同族会社で、夫婦がその経営に従事していた場合に、会社名義の財産も財産分与の対象になる旨判断しました。
② 株式
会社経営者が自ら経営する会社の株式についても財産分与の対象となります。非上場企業の株式を分与する場合には、株価の算定が困難で、税理士等専門家の協力が必要になる場合があります。
また、会社経営者の配偶者が株式を保有する場合、離婚後にも会社経営に参画して会社の適切な意志決定の妨げになることが考えられます。そこで、離婚の際に株式を買い取るなどの処理をする場合があります。
③ 退職金
会社経営者であっても、退職金が規定されている場合があります。経営者自身の退職金は見落とされがちですから、退職金が財産分与の対象となるか検討する必要があります。
配偶者の会社での就労
① 配偶者が従業員だった場合
会社経営者の中には、配偶者を従業員として雇用している方も少なくありません。このような場合、当事者同士だけでなく従業員も気まずいでしょうし、業務に支障が出ることも予想されます。
もっとも、離婚のみを理由として解雇することはできません。このような場合、十分な話合いをして円満に退職してもらうのが望ましいと言えます。
② 配偶者が取締役だった場合
業員として雇用している場合だけでなく、配偶者が会社の取締役になっている場合も少なくありません。離婚後に経営権の一部を握られれば、会社経営上望ましい意志決定が出来ない場合もありますし、取締役である配偶者としても、離婚後、取締役として思わぬ損害賠償責任を負わされるリスクを負います。
このような場合、会社法の手続きを踏めば株主総会を開催して取締役を解任出来ます。
しかし、正当な事由のない解任の場合会社が損害賠償請求を受ける可能性があります。
また、取締役には任期がありますから、任期満了を待つことも考えられます。もっとも、委員会設置会社以外の非公開会社の場合、10年以内の期間で任期を定めることが出来ますから、任期満了が長期に及び、これを待つことが適切でない場合もあります。
やはり、当事者で十分に話し合った上、辞任してもらうのが適切であると言えます。
なお、配偶者が会社の連帯保証人になっている場合も考えられますが、配偶者が取締役を退任する場合には連帯保証から外してもらうことを望むでしょう。離婚の際に配偶者を連帯保証から外してもらえるか否かは金融機関次第ですが、まずは中小企業庁による「経営者保証に関するガイドライン」の基準に従い保証契約の解除を申し入れることを検討すべきだと思います。
もっとも、金融機関が保証人を外す場合、他の保証人や他の担保の提供を要求されることも多く、連帯保証人から外れることは容易ではないことを認識しておく必要があります。
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